
はじめに
9月15日、私自身がゆらし療法の講習会に参加していた際に、右ふくらはぎを肉ばなれしました。
長年、施術者として多くの患者に肉ばなれの対応を行ってきましたが、自分が当事者になるのは十数年ぶりのことでした。
柔道やスポーツ現場での経験から、受傷直後に「これは中程度の肉ばなれだ」と判断できました。
ふくらはぎのやや上の方に、後ろから蹴られたような衝撃があり、その瞬間に強い痛みが走りました。
軽く伸ばしただけでも激痛が走り、歩行はほとんど不可能な状態でした。
理論では理解していたつもりでしたが、実際に体で体験してみると、改めて気づかされる点が多くありました。
本稿では、この実体験をもとに「歩いて改善する」という観点から、肉ばなれの回復プロセスをビジネス的・医療的視点で整理します。
受傷直後の判断と初期対応
受傷の瞬間、筋肉の線維が部分的に断裂した感覚があり、足を地面につけることすら難しくなりました。
通常であれば安静を最優先とする場面ですが、私は習得したゆらし療法の観点から、「冷やすよりも血流を維持し、神経反射を抑えることが重要」と判断しました。
一般的な対処法としては「冷却・安静・圧迫・挙上(RICE処置)」が推奨されます。
しかし、筋肉を過度に冷却すると血流が滞り、修復に必要な細胞が集まりにくくなります。
そのため、あえて冷却は行わず、「痛みを超えない範囲での微小運動」を意識的に続けました。
初期対応の目的は「守ること」ではなく「流れを止めないこと」です。
筋肉が硬直しないよう、足首をわずかに動かしたり、膝を軽く曲げ伸ばしたりすることで、微細な循環を保ちました。
動かすことによる循環改善の重要性
筋肉は損傷すると炎症が起こり、その後の修復に血流が欠かせません。
しかし、完全な安静を取ると循環が悪化し、回復が遅れます。
逆に、痛みを超えない範囲で動かすと、ポンプ作用によって血液循環が促進され、治癒スピードが上がります。
ふくらはぎは「第二の心臓」と呼ばれるほど全身の血流に関与しており、動かすか動かさないかで回復経過は大きく変わります。
私は受傷翌日から、ゆらし療法の自己療法+1時間ごとの軽い歩行を取り入れました。
動きを止めないことを意識し、筋肉内の循環を保ちながら回復を促しました。
2日目からの歩行リハビリ
2日目には、痛みのピークを過ぎ、足を地面に軽く着けられるようになりました。
ただし、油断すると再損傷のリスクが高いため、体重移動を丁寧に行うことを意識しました。
歩く目的は「移動」ではなく、「血液を流すために歩く」こと。
ふくらはぎを軽く動かすことで、静脈還流が促され、炎症の沈静化が進みます。
夜はぬるめの湯船で10分ほど温め、筋緊張をやさしくゆるめました。
この温熱刺激が翌日の可動域を広げ、自己治癒を後押しします。
3日目以降の変化と「治るサイン」
3日目になると、痛みの質が「ズキズキ」から「ジンジン」へと変化しました。
これは筋線維の再生が始まり、修復段階に移行したサインです。
この頃から、ストレッチと自己療法を併用しながら、歩行距離を少しずつ延ばしました。
体は刺激を受けることで再生を進める性質があり、無理のない範囲で動かすほど修復シグナルが強化されます。
筋肉は使われることで回復し、使わなければ硬化していく。
頭では理解していても、自身の体でその違いを体感したことは非常に大きな学びとなりました。
1週間後の状態と回復スピード
受傷から1週間後、歩行はほぼ問題なく、階段の昇降も可能になりました。
押圧するとやや張り感が残るものの、強い痛みは消失していました。
一般的に中程度の肉ばなれは3〜4週間の安静が必要とされます。
しかし今回は、約半分の期間で実用レベルまで回復しました。
その要因は、冷やさず・止めず・動かしたこと。
適度な運動が血流を維持し、修復に必要な細胞の働きを促したと考えられます。
科学的根拠と理論的裏付け
筋損傷時の炎症反応は、損傷を修復するために必要な過程です。
この時期に血流を止めてしまうと、修復物質が届かず治りが遅れます。
一方、軽い運動や温熱刺激によって毛細血管が開き、酸素供給や老廃物排出が促進されます。
これは「アクティブレスト(積極的休養)」という理論にも一致します。
ゆらし療法の核心は「痛みを超えない範囲で動かす」こと。
今回の私の回復経過は、その理論を裏づける実践例となりました。
心理的要素とモチベーション管理
肉ばなれは肉体的損傷だけでなく、心理的にも影響を及ぼします。
受傷直後は「しばらく動けないのでは」と不安がよぎり、気持ちが沈みがちになります。
しかし、「歩いて治す」と明確に意識を切り替えた瞬間から、気持ちも体の反応も変わりました。
心理学的にも、前向きな思考は副交感神経を優位にし、筋緊張を緩めることが知られています。
リハビリを「義務」ではなく「自分との対話」として捉えることが、継続と成果の鍵だと実感しました。
再発予防と今後のアプローチ
今回の経験で、再発防止には「柔軟性」「温度管理」「動的ストレッチ」の3点が不可欠であると再認識しました。
中高年層では、ウォーミングアップ不足が原因で筋肉損傷を起こすケースが多いです。
筋肉の弾力を維持するためには、毎日の軽い運動が最も効果的です。
私は施術現場でも、「日々の歩行が最高のストレッチになる」とお伝えしています。
歩くことは単なる移動手段ではなく、身体の自己修復機能を呼び覚ます行為です。
患者指導への応用
この経験を経て、患者への説明にも変化が生まれました。
以前は「無理せず安静に」と伝えていましたが、今は「痛くない範囲で動かしていきましょう」と言うようになりました。
体を信じて少しずつ動かすことで、回復は確実に早まります。
まとめ:歩いて改善するという考え方
ふくらはぎの肉ばなれは誰にでも起こり得ますが、正しい知識があれば恐れる必要はありません。
冷やしすぎず、痛みを見極め、動かすこと。
これが最も自然で、回復を早める最善の方法です。
歩行はリハビリの原点であり、人間が本来持つ自己治癒力を最大限に引き出します。
今後も私はこの経験を活かし、患者一人ひとりに「歩いて治す」ことの大切さを伝えていきます。
今回の出来事は、施術家としての学びであると同時に、経営者として「体験を価値化する」視点を再確認する機会となりました。
中程度の肉ばなれという一見マイナスな出来事を、学びと成果に転化できたことに感謝しています。
柔道整復師、栄養睡眠カウンセラー 後藤康之

