今年の9月15日、横浜で行われた「ゆらし療法」の講習会で、私は思いがけない経験をしました。なんと、自分自身が肉ばなれを起こしてしまったのです。しかも、ふくらはぎの肉ばなれはこれで2回目。1回目はラグビーのトレーナー活動中、選手の処置に駆けつけた瞬間に自分が負傷するという、今となっては笑って話せる出来事でした。今回もあのときとまったく同じ「ブチッ」という嫌な感覚が右ふくらはぎに走りました。
ゆらし療法講習会での出来事
ゆらし療法は、オスグッド・肉ばなれ・半月板損傷といったスポーツ障害に特化した療法です。講習会では理論だけでなく、実技の時間も多く取られます。その中の一場面で、短距離走のような動きを行ったときに、まさにその瞬間、右ふくらはぎが「ブチッ」となりました。これまで多くの患者さんの肉ばなれを診てきた立場として、その感覚だけで「あ、やったな」とわかるほど特徴的なものでした。
1回目の肉ばなれ ― RICE処置を忠実に実践
1回目の肉ばなれは、まだラグビーの現場にいた頃のことです。選手が負傷したと聞いて処置に向かう途中、自分のふくらはぎがまさかの肉ばなれ。現場にいたトレーナー仲間にも助けてもらいながら、その場ですぐにRICE処置(Rest=安静、Ice=冷却、Compression=圧迫、Elevation=挙上)を行いました。
特に負傷直後の3日間は徹底してRICEを守り、松葉杖を使って歩行時も極力患部に刺激を与えないようにしました。その結果、普通に歩けるようになるまでに約2週間、張り感が完全になくなるまでには約2か月かかりました。選手にも同じように指導していましたし、いわば「教科書通り」の対応だったと思います。
2回目の肉ばなれ ― ゆらし療法による初期対応
今回の講習会では、周囲にゆらし療法のベテランの先生方が多くいらっしゃったため、負傷直後からすぐに施術を受けることができました。ゆらし療法では、痛みの出ない範囲で患部の周囲を中心にやさしく動かしていきます。受傷直後なので当然痛みはありましたが、施術は痛みがそれ以上強くならないように逐一確認しながら丁寧に行っていただいたため、施術によって痛みが増すことはありませんでした。
講師の先生から「少しアイシングもしておくといい」とアドバイスをいただいたので、10分程度だけアイシングを行いました。これまでの経験からすると「こんな短時間でいいの?」と思いましたが、その後は自己療法に切り替え、講習会の残り時間も自分なりに患部をケアし続けました。
名古屋へ帰る道のりと翌日の変化
講習会終了後、そのまま横浜から名古屋へ移動しました。名古屋駅に着いたときは、さすがにふくらはぎに負担がかかり、歩行もきつい状態でした。正直、「明日はもっと腫れて痛みも強くなっているだろう」と覚悟していました。
ところが翌朝、起きてみると意外なことに痛みが前日よりも軽くなっていたのです。普通は翌日が一番つらくなるケースが多いだけに、これは正直驚きでした。自分の身体で初めてゆらし療法の効果を実感した瞬間でした。
回復経過と変化の実感
受傷翌日の時点で痛みが軽減していたことに驚きつつ、その後もゆらし療法を中心に自己療法を継続しました。患部を完全に固定して動かさないという従来の方法とは異なり、痛みの出ない範囲で軽い動きを入れていくことが、ゆらし療法の特徴です。私は、講習会で教わった通りの手技と自己療法を1日数回行い、経過を細かく観察しました。
1週間後
歩行時の痛みはほぼなくなり、ふくらはぎの張り感も軽度に残る程度でした。階段の昇降や軽いジョギングはまだ控えていましたが、日常生活にはほとんど支障がない状態まで回復していました。1回目の肉ばなれのときには、この段階でまだ松葉杖が必要だったことを考えると、回復スピードの違いは明らかでした。
2週間後
ふくらはぎの筋肉を軽く伸ばすストレッチを行っても、痛みはほとんど感じませんでした。患部を押したときの圧痛もかなり軽減し、軽いランニングも問題なく行えるようになりました。前回の経験では、ここまで回復するのに約1か月を要していたため、従来のRICE処置と比べても半分程度の期間でスポーツ復帰の目処が立ったことになります。
3週間後
現在、受傷から3週ちょっとが経過していますが、日常生活や軽い運動ではほとんど問題がない状態です。前回の肉ばなれと比較しても、回復期間は約半分。痛みや張り感もほぼ消失しており、慎重に段階を踏みながらスポーツ活動にも復帰できる状態です。
ゆらし療法とRICE処置の違い・考察
今回の経験で最も強く感じたのは、「冷やしすぎない」ことと「無理のない範囲で動かす」ことの重要性です。RICE処置は急性期の炎症を抑える目的で非常に有効ですが、長時間の冷却や過度な安静は血流を悪化させ、結果的に回復を遅らせる要因になることがあります。
ゆらし療法では、受傷直後から過度に冷やしすぎず、痛みを悪化させない範囲で適切に動かして血液循環を促すことを重視します。これにより腫れや筋硬結の形成を最小限に抑え、自然な修復プロセスを妨げません。
さらに、受傷部位そのものだけでなく、周囲の筋肉や関節が硬くなってくることへの対応も重要です。特に今回のケースでは、足首と股関節の可動性をしっかり確保し、患部周辺の筋緊張を早期から適切にゆるめることが、回復スピードの向上につながったと感じます。
臨床への応用とまとめ
今回の肉ばなれは偶然ではありますが、自分自身が「従来のRICE処置」と「ゆらし療法による初期対応」を比較する非常に貴重な機会となりました。その結果、
- 翌日には痛みが軽減
- 1週間で日常生活に支障なし
- 2週間で軽いランニングが可能
- 3週間でほぼ問題なし(前回の半分の回復期間)
もちろん、すべての肉ばなれが同じように経過するわけではなく、重症度や部位によって対応は異なります。しかし、冷やしすぎず、痛みの出ない範囲で適切に動かし、血流を促しながら周囲の関節・筋へのアプローチを並行して行うことで、従来よりもはるかに早い回復が可能になることを、自分の身体を通して実感しました。
今後は臨床の現場でも、この経験を踏まえた施術・指導を行い、患者さんの早期回復と再発予防に役立てていきたいと考えています。

